1. はじめに
部屋の隅から隅まで真っ白に照らす蛍光灯の下で朝から晩までコンピュータに照らされ続け。
だんだんなんだか目が痛くなってきたしついには頭痛まで。
疲弊しながらなんとか耐え切り、おつかれさまでしたさようならそしてまた明日。
そんな毎日。
正直つらい。
「オフィスは隅々まで蛍光灯で白く明るく照らすのが当たり前」
なんで常識がオフィスビル界隈ではまかり通っています。
本当になんなんでしょうこれ。
たしかに蛍光灯の昼白色は集中力を高めます。
高い照度は事務作業などの細かい作業に向いていることは本当です。
だからって体力を無駄に消耗しながら働くことが良いとは思えませんし、
長い目で見たら毎日できるかぎり快適に働いてもらった方が経営者視点でもいいはずです。
さらにオフィスの役割も働くことから生み出すことへ。
従業員もワーカーからプレイヤーへと変化しつつあります。
短時間の集中のための昼白色電灯ってどうなのよ。
と、常々思っています。
眩しいの嫌いなだけなんですけど。
ということで今回は、オフィス内の照明まわりのいろいろをお話したいと思います。
電球替えてみたら仕事はかどった!なんてこともあるかもしれません。
ちょっとだけ、「当たり前」を考えなおしてみましょう。
2. もくじ
- はじめに
- もくじ
- なんでこんなに明るいの?
- 明るさはどれくらいが適切?
- オフィス照明を深化させる知的照明という考え方
- 副産物、省エネ省コスト
- おわりに
3. なんでこんなに明るいの?
そもそもオフィスや店舗って、なんでこんなに明るいのでしょうか。
ニューオフィス運動が緖についた1994年、新しい時代のオフィスで最低限満たすべき22項目の基準が示されました。
その中でオフィスの明るさについて「机上照度750ルクス」という照度基準が設けられ、JISも証明学会の推奨値を追認しました。
「オフィスは隅々まで蛍光灯で白く明るく照らすのが当たり前」という常識は、この考えに基づいたものです。
少し専門的になりますが、照度と色温度との相関関係を表した『クルイトフの快適カーブ』というものがあります。
オランダの物理学者A.A.Kruithof氏の研究から導かれた定義で、人間が快適か不快かを判断する基準となるものです。
750ルクスの快適値は色温度4500~5500ケルビンを中心とします。
これは昼白色であり、日中に狩りなど生きるための仕事を行ってきた人間という生き物が最も集中力を発揮できる数値です。
高照度の白い光で隅々まで照らす理由がここにあります。
なのですが、人間が集中できる時間はせいぜい1時間が限度。
昔のことを考えても、ウホウホ言いながらナウマン象と勝負していた時間なんて何時間もないはずです。きっと。
そもそも昼白色の陽の下にいた時間帯も限られており、8~12時間もそんな環境にいる現代がおかしいとも言えます。
無理して長時間集中を継続すれば疲労感が増し、適度な気分転換やリラックスが必要となります。
この「750ルクス神話」がうまれたのはもう20年も前のお話。
24時間働けますか。っていう1994年の働き方に合わせた思想です。
働き方は変わったのに照明に関する思想はそのままなのです。
通用しなくなって当たり前。
94年と全く同じ働き方を実行している企業がいま、どれほどあるでしょうか。
「うちの会社そうだよ!」って方はちょっと真剣にオフィスのリニューアルを考えてみてください。ほんとに。
4. 明るさはどれくらいが適切?
さて、では現代の働き方に適した明るさってどんなものなのでしょうか。
その大きなヒントとして大成建設技術センターが記した『照明計画と知的生産性に関する研究』というレポートがあります。
そのレポート内での実験内容をかいつまんで記載します。
まず実験条件は下記。
実験室の照明は照度・色温度が各々一定範囲で無段階に調整可能となっている。
オフィス照明基準である Case 1 (750 lx-5000 K) を基本設定とし、
照度のみ下げた Case 2 (375 lx-5000 K) 、
さらにそこから色温度を下げた Case 3 (375 lx-3000 K) 、
Case 1 から色温度のみを下げた Case 4 (750 lx-4000 K)
を設定した。
要は明るい環境・暗い環境でそれぞれにオレンジの光と白い光を用意。
4種類の比較を行ったということです。
そしてそれぞれに主観的にと客観的に評価をつけました。
主観評価は『室内環境に対する満足度と感覚量の申告』を。
客観評価には、
- 単純業務の模擬作業として加算作業、校正作業、テキストタイピングを。
- 商品開発など創造性が必要とされる業務の模擬作業として数独、マインドマップ、ブレインライティングを。
それぞれ課しました。
で、その結果。
オフィスの照明基準である 750lx-5000K で最も満足度が高かったが、光環境の満足度の高い空間が必ずしも作業効率を向上させる空間ではない可能性が示された。
満足度は、普段教室やオフィスで体感している環境を好む傾向が影響していると考えられる。
暗い環境は眠気やだるさは増すが、身体的にリラ ックスできる環境であることが確認された。
一方、明るい環境は一概に眠気を感じにくい環境であるとは言えないことがわかった。
また、主観的な疲労感が低い空間は、作業効率を向上させる空間である可能性が示された。
加算作業・校正作業・テキストタイピングなどの単純作業では、光環境の違いは作業効率に有意な差を与えなかった。
その理由として、単純作業は作業に集中することで、室内環境の影響を受けにくいことが考えられる。
一方、知識創造作業では、作業によって異なる影響を与えることを確認した。
まとめると、
- 明るいオフィスは満足度が高い。けどそれは慣れてる環境だからかもね。
- 暗いオフィスは眠気は増すがリラックスできる。でも明るくても結局眠くなる。
- 単純作業の効率は実は明るさにあんまり関係ない。
- クリエイティブな仕事は作業によって適した明るさや色温度がある
です。
単純作業の効率は実は明るさにあんまり関係ないというのはちょっとビックリですね。
気になるのは『知識創造作業では、作業によって異なる影響を与えることを確認した。』部分。
数独では、明るく暖かい光の環境のが有意。
マインドマップでは暖かい光が有意に。
ブレインライティングでは、明るく白い光が有意。
などなど、本当にバラバラの結果を示しています。
またクリエイティブの作業効率と疲労度には相関関係があり、主観的な疲労度が低い空間はクリエイティブな作業効率が向上するという結果です。
この実験結果からも示されるように、大切なのは働き方によって様々なシチュエーションの空間を用意しておくこと。です。
ちょっと乱暴すぎますかね。
でも実際そうなんです。
そこには知的照明という考え方が関わってきます。
5. オフィス照明を深化させる知的照明という考え方
2010年、現・公益社団法人日本ファシリティマネジメント協会(JFMA)は、同志社大学の三木光範教授(最適化理論)に「JFMA技術賞」を贈りました。
その理由は「執務者の個別選好照度と高い省エネルギー性を実現する照明の分散最適制御システムとして」というものです。
ワーカーが気持よく働けてさらに省エネにもなってええやんけ!ってことですね。
同教授による新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)助成による「知的照明システムの実証実験」が、
東京駅前の東京ビルと、六本木ヒルズ森タワーで実施されました。
その結果、個人が照度を反映できる照度計を通じて選んだ照度は、両ビルともバラバラ。
この結果は「750ルクスが正義!」と思い込んでいた日本のオフィス照明分野に照明環境改善の必要性を突きつけました。
経営サイドの用意した白い高照度の均質な光に対して、ワーカーが選んだのは「不均質」な光。
職種によってバラバラだったのです。
そしてそれぞれの平均照度は以下のとおり。
- 東京ビル|平均照度800ルクス、選好照度平均547ルクス
- 森タワー|平均照度660ルクス、選好照度平均367ルクス
クリエイティビティを発揮する必要のある現代のワーカーは、一般的には『750ルクス』より暗い環境を好むことがわかります。
選好照度に関して仕事のしやすさと快適さを評価づけてもらったところ、森タワーでは選好照度300ルクスと500ルクスがピークとなり、750ルクス以上はむしろ少ないという結果になりました。
加えて低照度ほど暖かな色が。高照度ほど白色が好まれており、この点でクルイトフの快適カーブと同様の結果です。
職種によって好む明るさはバラバラ。
一般的には従来よりも暗めを好む。
知的照明の考えから生産性を高めるには、使用するシチュエーションに合わせ様々な照度の環境を設えるとよい!です。
ちなみに労働安全衛生法による業務空間に必要な手元の照度規定は以下の通り。
- 精密な作業|作業面の照度300ルクス以上
- 普通の作業|作業面の照度150ルクス以上
- 粗雑な作業|作業面の照度70ルクス以上
常識であるはずの750ルクスっていったい何なのか…。
6. 副産物、省エネ省コスト
知的照明という考え方は生産性の他に大きな副産物を生みだします。
それが省エネ省コスト。
日本マイクロソフト社はCO2排出削減策として、750ルクスの昭明を450ルクスまで落としていました。
さらに2011年の東日本大震災に伴う原発事故を受け、執務空間を250ルクスにまで絞りこみました。
それでも、PCに向かうオフィスワークには何の支障もないといいます。
原発停止の影響を受けた化石燃料高などによる電力料金値上げ幅はおよそ22%でした。
この上げ分を減光節電で相殺するには、750から600ルクスにすればOKです。
わずか20%の減光でいいのです。
マイクロソフト社が250ルクスに絞り込み節約した電気料金は、値上げ分を考慮してもお釣りがきます。
生産性の向上と省エネ省コスト化。
企業利益に貢献するために、減光が大きな役割を持つのです。
6. おわりに
テレワークの促進や使用デバイスの進化などを受け、私たちの働き方が大きく変化しています。
この流れはしばらく続きそうで、行き着く先はオフィスの役割の変化です。
これまでワーカーがところ狭しと机を並べて一律に「作業の場」であったオフィス空間。
この先はプレイヤーと呼ばれる人たちがイノベーションを生みだすために、
知恵を絞って新しいアイデアを生みだし実行するための「人と人との化学反応の場」になるはずです。
リラックスできて空間は広々ととり、快適でストレスや不安のない、
新しい何かが生まれやすい場になっていく必要があります。
照明ひとつとっても考え方がガラリとかわってきます。
未来を見据えた経営者になるならば、これからの働き方を考え、いままでの常識を疑ってみる必要があるのではないでしょうか。