1. はじめに
近未来の社会とオフィス移転・オフィスデザイン市場を読み解く上で、「生産年連人口の推移」と「グローバル化」は比較的予測しやすく、かつ重要な要素になります。それらに対してどのような手が打たれるかで、この先のオフィス移転に打たれる手が変わってくるはずです。
2. 日本の人口は1,000万人以上減少する
日本の人口が減少していくことはほぼ間違いありません。2010年の1億2806万人をピークに、2030年には1億1662万人へ、2018年は1億人を割り込むと推計されています。(平成24年版国土交通白書)
これは人口増加を前提として構築されてきた仕組みのすべてが崩壊し上手く機能しなくなることを意味します。「収縮社会」に向けて発送を切り替え、賢く縮減(スマートシュリンク)していく知恵と仕組みが必要になります。
オフィス移転に直接影響を与える生産年齢人口はすでに減少に転じています。しかし、2030年に向けて定年退職年齢のアップや定年制の廃止、女性の社会参加率を高める政策や外国人ワーカーを積極的に受け入れる政策が打たれれば、オフィスワーカーの減少幅は推計値より低く抑えられるでしょう。
また、生産年連人口の減少をひとりひとりの知的生産性をあげてカバーするという手もあります。
3. 追撃するアジア諸都市と日本の戦略
グローバル化の進展もほぼ確定的です。アジアのライバル都市が急激な勢いで台頭しています。グローバル企業はどこがもっともアジアののヘッドクオーターにふさわしいか、経済のみならず、政治、文化、環境などあらゆる観点から比較検討しています。アジアの成長エネルギーを日本経済に取り込んいけるかどうか、東京が世界から選ばれる都市になれるかどうかが鍵になります。
国は国際競争力を高めるため、2014年に国家戦略特区を定めて規制緩和を進め、世界の企業を呼び込もうとしています。2020年の東京オリンピックが決まり、それに伴う都市骨格の再整備や臨海部などの開発にも明確な目標年度ができました。この追い風を活かして、都市再生や規制緩和がどこまで実現するかに寄って、今後のオフィス移転のシナリオは大きく変わるでしょう。
都市はあらゆる人間活動の舞台です。ICTの進化でいつでもどこでも働ける環境ができたとしても、協働や交流の核となるオフィス空間が経済活動の中心的な社会基盤であることは将来的にもかわらないでしょう。
生産年齢人口の減少を悲観的に捉えうのではなく、知的生産性の向上などでカバーできるような、また、世界のワーカーがを受け入れられるような都市やオフィスデザインをゼロベースから考えるチャンスとも言えます。
4. 日本の都市やオフィスデザインは世界に開かれているか?
「美しい国、日本」という標語がありました。前文には「活力とチャンスと優しさに満ち溢れ、自立の精神を大事にする、世界に開かれた」とあります。これを都市やオフィスに置き換えると、「世界から多種多様な人種や職業の人を受け入れ、誰もがストレス無く自由に交流や活動ができる場と機会があり、情報とチャンスに溢れ、さまざまなビジネスが生まれるところ」となります。
こうしたオフィス環境を実現するにはどうしたらいいのでしょうか。ここでは民間で取り組める、あるいは官民が協力してできることに絞って話を進めていきましょう。
まず、誰にとってもわかりやすいまちづくり。もっとも基本的なことは「どこに何があるか」です。そのためには明快で、わかりやすいまちづくりはもちろん、ICTを利用した街情報を共有化する仕組みや、情報ネットワークとコンテンツの整備が欠かせません。インフォメーションコーナーの設置も誰もがわかりやすいサイン計画も重要になります。
これらのソフトの内容や言語がユニバーサルであることは言うまでもありません。多種多様な来街者が求める情報やサービスを早く簡単に提供できることが、世界の企業やワーカーを惹きつけるために欠かせない条件です。
5. オープンでフレンドリーな「場」をつくる
働く場であるオフィスもしかり。そこで働くだけでなく、訪れる人にももっとオープンでフレンドリーであるべきではないでしょうか。
これまでのオフィスデザインは昨今の高セキュリティ化によって、訪れる人に対して閉鎖的な傾向が強くなっています。自然災害に対しても、これまでのオフィス内のワーカーは守るが、その他の人々を積極的に受け入れようとはしませんでした。
インタラクティブな環境とセキュリティは相矛盾した関係であり、自然災害対策とセキュリティも矛盾した関係にあります。
これからのオフィスデザインはそれらを乗り越えて、「閉ざされたオフィス」から「開かれたオフィス」へ向かう発想、知恵、技術が求められます。
また、多彩な人種、年齢、性別の人々を受け入れストレス無く働いてもらうには、つくり手の考えた「均質で高質なオフィスデザイン」を押し付けるのでなく、使い手が望む「可変性の高いオフィスデザイン」を用意しクライアントと一緒になってストレス無く働き続けられる環境をつくりあげていくという発想も必要です。
これまでの流れをキーワードでまとめるならば、「人口減少とグローバル化」→「海外企業の誘致や女性・高齢者の社会参加を認める」→「働く人・訪れる人にやさしいICT化」→「誰にとってもオープンで安心安全なオフィスデザイン」となるでしょう。
6. オフィスと外部をつなぐコワーキングスペース
ひとつのヒントが「コワーキングスペース」です。現在のコワーキングスペースは、一般のオフィス空間とは明らかに区別された、個人の企業家やフリーランスがメインユーザーになっています。しかし、これに近いイメージの空間と機能が企業のオフィスの内部や外部に設けられていくことで、インタラクティブな環境に近づくのではないでしょうか。
これはひとつの例ですが、近未来のオフィスデザインの主要な役割が「人が集まる場」になると仮定すれば、閉鎖的な空間づくりから開放的な空間づくりへ発想を転換するべきです。