いざオフィスを退去するとなったとき、果たしてこのガイドラインはどのような効力を発揮してくれるのでしょうか…?
目次
- 1.原状回復に関するガイドラインとは?
- 2.ガイドラインのポイントとは?
- 3.退去時のトラブルを避けるため、契約時に注意すべきことは?
- 4.契約書に記載されている「賃借人は原状回復をして明け渡しをしなければならない」の範疇とは?
- 5.原状回復は自分でおこなってもよいのか?やはり、プロに任せるべきか?
1.原状回復に関するガイドラインとは?
賃貸契約において、退去の際に原状回復をするのは借主の義務とされています。みなさんも、原状回復と聞けば「借りた当時の状態に戻すこと」だと、把握されていることでしょう。
しかし時間は逆行することはあり得ません。使用上、やむを得ず損耗してしまった部分であれば、借主側もすんなり納得して賠償することが可能です。でも、経年劣化による損傷であったならば…?
そんな悩みを極力スムーズに解決できるよう発行されたのが、国土交通省による原状回復のガイドラインです。
国土交通省HP:「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」について
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk3_000020.html
退去時におけるトラブルは、大なり小なり意外にもよくある話。こうした国からのガイドラインがあることで、もしもの際にも円滑に交渉を進めることができるでしょう。
実際に過去、原状回復がらみのトラブルによる裁判でも、このガイドラインをもとに決着がついた判例も。賃貸物件におけるものさしとして、ぜひとも抑えておきたい情報です。
2.ガイドラインのポイントとは?
国交省のリンクを見ると、「原状回復は、賃借人が借りた当時の状態に戻すことではないことを明確化」と記載されています。当ガイドラインのもっとも重要なポイントがまさしくこちら。
冒頭でもお伝えしたように、時間を逆行させることは不可能です。ゆえに、借主は入居当時の状態をまるまる再現して退去する必要はなく、あくまで故意であったり、不注意により著しく汚損・破損してしまった箇所のみを修復すればよいのです。
例えば、日光により焼けてしまったクロスや一般的な生活痕など、通常の使用によって発生した損耗は、借主の責任ではないということになります。反対に、誤って重量物を落下させたなどの大きなキズ類は、借主の過失となり得ます。
ただし少々曖昧なのが、「通常の使用」という部分。これについても、「基本的には経年劣化・通常損耗であるが、その後の手入れ等賃借人の管理が悪く、損耗等が発生または拡大したと考えられるもの」と記されています。
つまり、例え大きなキズを残していなくとも、清掃などを怠った結果、物件そのものを傷めてしまったようであれば、借主の過失であると解釈できます。(主観としては、放置しすぎてクリーニングでも落ちにくくなってしまったカビやシミ類・結露を放置したことによる床や壁内部への腐食などが当てはまるでしょうか)
3.退去時のトラブルを避けるため、契約時に注意すべきことは?
出典:http://legalandclaims.co.uk/
「このようなガイドラインが定められていれば安心…」と思えるかもしれません。ですが、その賃貸がオフィス・事務所向けであった場合、少々話が変わってきてしまいます。
国交省ガイドライン冒頭の<利用にあたって>の箇所に、
1,「賃料が市場家賃程度の民間賃貸住宅を想定しています。」
2,「現在、既に賃貸借契約を締結されている方は、一応、現在の契約書が有効なものと考えられますので、契約内容に沿った取扱いが原則」
と記載されていることに着目してみましょう。
1つめの注意すべき部分は、民間賃貸“住宅”と記されている点です。オフィスや事務所として提供されている賃貸の場合、このガイドラインが適応されないケースのほうが多いことを念頭に置かなければなりません。
まれなケースとしては、一般的な賃貸住宅を小規模・少人数向けオフィスにしていた場合のみ、このガイドラインが認められた判例がありますが、そのような用途でもやはり入居時に確認し、きちんと借主と話を通しておくことが大切です。
2つめにおいても、すでに契約してしまった内容に関しては、始めの賃貸契約書がもっとも効力を持つと解釈するのが無難でしょう。新しいオフィスを構える際は、「どんなオフィスにしようか」と未来への希望ばかりを考えてしまいがち。
ですが、「いつかは退去するかもしれない」点も忘れずに、退去時における対応についてもしっかり確認しておくことがポイントです。
4.契約書に記載されている「賃借人は原状回復をして明け渡しをしなければならない」の範疇とは?
て、国土交通省による原状回復のガイドライン、賃貸オフィスや貸事務所にはあまり有益でないということがおわかりいただけたかと思います。では、いったいどこまで原状回復をすればよいのか、その範疇が気になるところ。
結論からすると、賃貸オフィス・貸事務所における原状回復は、一般住宅と異なりほぼ「借りた当時の状態に戻すこと」となるケースがほとんどです。つまり、例え日光による日焼けであったにせよ、入居時と変わってしまった箇所は何もかも元通りにする必要があります。
なんの内装も施されていないスケルトン物件であったならば、自分たちで施工した内装は一切合切撤去しなければなりません。住宅向けの賃貸とは大きく異なるため、なんだか釈然としない…そう思われる方も多いでしょう。
住宅向けであれば、「単身者・ルームシェア・家族」といったように具体的なターゲットが決まっているため、おおかた損耗のパターンも一定です。ですが、業務向けとして使われる物件の場合、入居者(業種・規模)のパターンが一定ではありません、
また、通常賃貸住宅であれば、借主が内装に手を加えることはほぼないのに対し、賃貸オフィスの場合、入居後に内装加工するケースが多い点でも異なります。
多様な使われ方をするオフィスに対して、国交省のガイドラインを適応させるのは困難なのです。また、貸主側も法人相手がメインとなるため、トラブルが大きくなるのを防ぐためにも、「原則100%借主負担」を謳わざるを得ないのが現状です。
5.原状回復は自分でおこなってもよいのか?やはり、プロに任せるべきか?
出典:https://www.tenerifefurniture.com/
なにかと経済的に負担の大きい原状復帰。
少しでもコストを抑えるために、自分でおこなってもよいのでしょうか…?実はこの問題に関しても、結論は賃貸契約書次第となってしまいます。原状回復の項目に、“貸主指定の業者に依頼すること”といった内容が含まれている場合、無許可で自己手配することはできません。
簡単な撤去作業くらいならば、指定業者が立ち入る前にDIYで済ませてしまうのもよいでしょう。
ですが、最終的に「原状回復された」かどうかの判断は貸主に委ねられます。思わぬトラブルにならないためにも、なるべく指定業者に依頼したほうが安心です。原状回復のポイントも、プロならではの視点やさじ加減があるのも事実です。
もし業者選びに交渉の余地がある場合、原状回復工事を引っ越し先である新オフィスの施工会社へ任せてみるのも有効な手立てのひとつ。大抵のオフィスデザイナーは、旧オフィスの退去に関してもバックアップしてくれることがほとんどです。
貸主の許可さえ得ることができるのならば、旧オフィス→新オフィスの一連の作業を1つの業者にまとめたほうが、手配もスムーズかつ費用面でもお得になります。
また、最近のニーズを熟知したデザイナーであれば、「あえて原状復帰せず残したほうが物件価値が上がる点」を貸主にうまくアピールしてくれることも。
築年数が古いオフィスなどは特に、この交渉によって回復箇所を減らせた例も多くあるので、まずは一度契約書を確認し、提案があれば貸主とよく話し合ってみてくださいね。