厚生労働省が発表したガイドラインによると、企業は受動喫煙の防止努力を行うことが望ましいとしています。2020年の東京オリンピックに向けて、今後ますます、分煙・禁煙の動きが加速していくでしょう。そこで今回は、喫煙者・非喫煙者がお互いハッピーになるオフィスの喫煙環境対策はどのようなものか検証します。
非喫煙者と喫煙者の深い溝 喫煙者には肩身がせまい社会へ
JT(日本たばこ産業)が2016年5月に実施した「全国たばこ喫煙者率調査」の結果によると、全国の喫煙者率は19.3%といいます。特に男性の喫煙率は29.7%と、調査以来最低の数字となりました。
2003年に施行された「健康増進法」以降、今や分煙・禁煙が当たり前の時代です。企業では分煙・禁煙対策の加速化が進められています。喫煙者は喫煙所を探しに放浪しなければならないという、肩身の狭い社会になっています。
昔から、喫煙者にとってのタバコは「仕事の疲れを癒すもの」「社内外とのコミュニケーションツール」といいます。しかし、多くの非喫煙者からは、業務上の喫煙は「迷惑」「臭い」「サボっている」と言われてしまいがちなケースもしばしば見受けられます。
現在でもお互いの主張は譲れないようで、理解し合うことはなかなか難しいようです。
健康増進法の施行によりオフィスの禁煙・分煙努力を義務化
喫煙者・非喫煙者の権利主張の相違はあっても、企業はオフィスの受動喫煙防止の対策を行わなくてはなりません。
それは、2003年に厚生労働省により施行された「健康増進法 第25条:受動喫煙の防止」により、「受動喫煙を防止するために必要な措置を講ずるよう努めなければならない」と定められているからです。さらに、「職場における喫煙対策のためのガイドライン」によれば、「全面禁煙か空間分煙が望ましい」とされています。
また、企業のオフィスにおける禁煙・分煙が十分に成されていない環境で、受動喫煙による健康被害が発生した場合は、会社がその責任を負うこととなります。禁煙・分煙対策を行うことは、企業の義務となっているのです。
帝国データバンクの調べによると、「全面禁煙」の企業は23.7%にのぼり、完全分煙を行っている企業は55.2%となっています。
完全禁煙を実施している企業では、「星野リゾート」が有名です。「星野リゾートでは、禁煙者のみを採用し、喫煙者は入社すらできません。また、「日本交通株式会社」では、タクシー乗務員の「車内完全禁煙」を品質向上の一つの戦略として実施しています。
喫煙者にとって「社内全面禁煙」は大変厳しい就業規定です。喫煙者は、喫煙することは自由の権利であるとの考え方もあります。しかし、非喫煙者にとってみると、「嫌煙」も権利です。このことから、禁煙・分煙の対策は、喫煙者・非喫煙者の理解とコミュニケーションを促し、双方にとって満足度を高めるための環境整備が必要だといえるでしょう。
完全分煙化は企業戦略の一環?従業員が満足する分煙対策とは
双方にとっての立場を理解し、ガイドラインに沿った環境へ整備するため、「完全分煙」または「空間分煙」を取り入れる企業が増えています。
完全分煙とは、喫煙スペースをまるっきり別のところへ移動させることです。外のスペースやビルに設けられたスペースを利用することもあります。
この場合、喫煙者・非喫煙者の双方が快適となるメリットがありますが、喫煙者が喫煙スペースまで移動する時間がかかる、非喫煙者からみると喫煙がサボる口実に感じがち・・・といったデメリットが生まれます。また、喫煙者と非喫煙者のコミュニケーションに隔離をさらに広げることにもなりかねません。
この双方が感じるデメリットを解決するのが「空間分煙」です。分煙機能が徹底している設備を非喫煙者の休憩スペースと同じ場所に配置します。高性能の排気機能を持つ「分煙キャビン」などの設置により、キャビンの扉を開けていても外に煙が出ずに、同じスペースでも完全分煙を実現できます。
非喫煙者と喫煙者が同じスペースで「休憩」することにより、双方のコミュニケーションも可能です。お互いの顔や行動、話し声が聞こえることは、安心と理解を深めることができるでしょう。
しかし、完全に空間分煙できていると言っても、喫煙スペースとの境目がオープンになっていることに拒否感を持つ非喫煙者も中にはいます。
この場合は、休憩スペースやコピースペースなどの隣にガラスで仕切った喫煙スペースを設ける方法があります。
ガラスで仕切ることで視線的にはオープンとなり、喫煙のため外に放浪に出た喫煙者の行方不明を防ぐことができます。
このように、分煙を徹底すると、設備や環境整備のための費用が新たに発生しますが、厚生労働省が管轄する「受動喫煙防止対策助成金」を活用することも可能です。制度を利用し分煙環境を積極的に進めることで、喫煙者・非喫煙者の満足度向上と社会の禁煙化に貢献することができるでしょう。
まとめ
昭和の時代にはコミュニケーション、癒し、頭が冴えるなど言われてきたタバコですが、現在では応接室も禁煙の企業が多く、多くのテナントが入るビルではビル全体で全面禁煙となっています。
喫煙者の権利はもちろん大切ですが、世界が禁煙化へと流れていることも事実。自由な喫煙を要因しているままでは、オフィスの印象をも左右しかねません。
企業の禁煙・分煙の徹底化は、従業員の満足度向上はもちろん、企業のイメージ戦略に必要なものとなっているのかもしれません。